東京大学の井手口拓郎准教授らの研究グループは、新しいラベルフリー顕微鏡(赤外フォトサーマル定量位相顕微鏡)の開発に成功した。
従来困難であった「細胞の形態」と「分子の分布」の同時計測を実現した。
ラベルフリー顕微鏡とは、生体分子を非標識(ラベルフリー)、つまり生きたままの状態で観察できる顕微鏡を指す。
これまでのラベルフリー顕微鏡は、細胞の形態を詳細に測る定量位相顕微鏡と、生体分子の分布を測る分子振動顕微鏡の2種類に大別されていた。「細胞の形態」もしくは「分子の分布」のいずれか一方の計測しかできなかった。
研究グループが開発した顕微鏡は「赤外フォトサーマル定量位相顕微鏡」と言う。
微鏡の観察部に置かれた成体分子の全体に、特定の波長の赤外光を照射する。この赤外光に共鳴する振動を持つ生体分子種が存在する場合、分子振動が誘起され、緩和によるエネルギーが熱として周辺媒質に伝わる(フォトサーマル効果)。
この熱による屈折率変化を画像検出する仕組みだ。
同顕微鏡では、アフリカミドリザル腎臓細胞(COS7)やヒト胎児腎臓細胞(HEK293)など、分子生物学や細胞生物学の分野で頻繁に用いられる培養細胞を観察することができた。
研究グループによると、高い解像力を持つ対物レンズを用いることで、従来の分子振動顕微鏡では達成できなかったような空間解像度を実現することも原理上可能だという。
細菌などの内部構造を観察することにも役立つとしている。
情報元:OSA | Label-free biochemical quantitative phase imaging with mid-infrared photothermal effect
生体分子を顕微鏡で観察する際には、蛍光標識する手法が広く利用されている。
しかし、同手法には、生体分子の生理活性を阻害したり、標識をつけた分子を細胞内に入れるために細胞の一部を壊したりという課題がある。
新しいラベルフリー顕微鏡(赤外フォトサーマル定量位相顕微鏡)には、大きな可能性がある。医療や生物学などにおいて、新たな計測ツールとして利用されることが期待される。
日本は、こういう研究にかける予算をケチってはいけない。