慶應義塾大学の柚﨑通介(ゆざき・みちすけ)教授らの研究グループは、途切れた神経回路を再びつなぐことに成功した。
様々な精神・神経疾患は、神経細胞間のつなぎ目である「シナプス」の異常に起因すると考えられている。
研究グループはシナプスを接続させる「人工シナプスコネクター」を開発。
小脳失調、アルツハイマー病、脊髄損傷のモデルマウスに投与した結果、シナプス再形成と病態改善に成功した。
研究グループは以前の研究で、主に小脳でシナプス前部と後部をつなぐ作用を持つシナプスコネクター「Cbln1(セレベリン)」を発見している。
Cbln1のようなシナプスコネクターを、脳内の他の神経回路で働かせることができれば、シナプスの減少や異常を原因とする精神・神経疾患の病態を改善できるのではないかと考えた。
研究グループは今回、「NP1(神経ペントラキシン)をいう分子の構造を解明。
NP1とCbln1の構造情報に基づき、新しい人工シナプスコネクター「CPTX」を開発した。
CPTXには、幅広い神経回路でシナプスを接続できる特性があるという。
研究グループは開発した人工シナプスコネクター「CPTX」を、小脳失調、アルツハイマー病、脊髄損傷のモデルマウスにそれぞれ投与した。
小脳失調マウスはバランスよく歩けない状態だった。CPTX投与後3日ほどした頃から、安定した歩行ができるようになった。
アルツハイマー病マウスは、迷路でエサの場所を覚えられない状態だった。同じく3日ほどで改善がみられ、スタート地点からエサのある場所までの最短経路を正確に記憶できるようになった。
脊髄を損傷したマウスは、後ろ足が動かない状態だった。投与1~8週間後、マヒしていた足を動かせるようになるなど症状改善がみられた。
研究グループは、将来的にはヒトへの応用も視野に入れている。
情報元:A synthetic synaptic organizer protein restores glutamatergic neuronal circuits | Science
この技術をもとに新たな治療法が確立できれば、大きな国益となる。
アルツハイマー病などの患者が減れば、介護に割く労働力も減り、間接的に生産力の増加につながる。
もちろん、簡単にはいかないだろうが。