京都大学の坂本智子(iPS細胞研究所特定研究員)らの研究グループは、精巣内に存在するセルトリ細胞の表層にある網目状の「細胞骨格アクチン」の構造が、正常な精子の形成に影響を与えていることを発見した。
同研究の論文は、米国の国際学術雑誌「PLOS Biology」のネット版に掲載された。
不妊の原因の約半数は男性側にあり、その原因の多くは精子形成障害である。
しかし、その発生メカニズムには、不明な点が多く、現時点では根本的な治療法はない。
正常な精子の形成には、「精子細胞」と、精巣内に存在する「セルトリ細胞」の密接な相互作用が重要であることは分かっていた。
精子細胞とセルトリ細胞の細胞接着は、細胞接着分子と「細胞骨格アクチン」から構成されている。しかし、生体内において「細胞骨格アクチン」がどのような構造をし、どのように形成・維持されているのかについては、ほとんど分かっていなかった。
細胞骨格アクチンの重合促進分子である「mDia」は、ヒトの場合、「mDia1」「mDia2」「mDia3」の3つのアイソフォーム(構造は異なるが同じ機能を持つタンパク質)があるが、生体内においてどのように機能しているのかは不明だった。
同研究グループは、精子細胞とセルトリ細胞の細胞間接着を強化する「細胞骨格アクチンの構造」が、アクチンの重合を促進する「mDia1」又は「mDia3」によって作られ、正常な精子の形態形成に寄与していることを発見した。
つまり、「mDia1」と「mDia3」の両方が欠損すると、精子の形成不全が起きる。
「mDia1」か「mDia3」のどちらか片方のみが欠損している場合には、精子の形成不全は起きにくい。
同研究成果により、セルトリ細胞内の「細胞骨格アクチン」の異常が、男性不妊の原因の一つであることが証明された。
なお、男性不妊の原因は、これ以外にも考えられる。
同研究成果は、男性不妊の新しい治療法の開発につながる可能性がある。