武田薬品工業は5日、臨時株主総会を大阪市内で開き、アイルランドの大手製薬会社「シャイアー」の買収を賛成多数で可決した。
採決の結果は、賛成が9割近くに達し、可決に必要な3分の2を大きく上回った。
買収手続きは、来年1月中に完了する。
「シャイアー」の買収総額は460億ポンド(約6.6兆円)で、日本企業の海外M&A(企業の合併・買収)としては過去最高額となる。
武田薬品工業の連結売上高は平成30年3月期で1.8兆円だが、買収することにより3兆円を超える。売上総利益(売上収益)は約2倍になる。
日本の製薬会社としては、初の世界売上トップ10に入ることになる。
武田薬品工業のロゴ、出典:武田薬品工業 - Wikipedia
武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長兼CEOは、同社のホームページ上で、今回の「シャイアー」買収に必要性について以下のように述べている。
「統合後の会社の豊富な資金により、現在の研究開発費を上回る、年間4000億円以上の研究開発に投資することが可能となり、グルーバルにおいても、非常に競争力が強くなります」
「事業面においては、買収によりタケダの規模は大幅に拡大します。当社の売上収益は約2倍になり、事業は主にオンコロジー、消火器系疾患、ニューロサイエンス、希少疾患、そして広範な疾患の治療に使用される血漿分画製剤(けつえきせいざい)に集中します。これら5つの事業が全世界の当社売上収益の75%を生み出します」
情報元:CEOからのメッセージ
新薬を開発するのは、物凄く大変だ。
薬の種類にもよるが、資金は数100億円以上、時間は9~17年くらいかかる。
新薬(医薬品)開発するまでの流れ
①基礎研究(2年~3年):新薬の候補となる物質の発見又は製造
②非臨床試験(3年~5年):細胞や動物で有効性・安全性を調査
③臨床試験(3年~7年):ヒトで有効性・安全性を調査
④承認審査(1年~2年):医薬品として製造・販売するために申請
⑤製造販売後調査(半年~10年):薬の販売後のデータを収集
新薬開発には多額の金がいる。
世界で発売される新薬は、米国の製薬会社が約5割、スイスの製薬会社が1割強を開発している。
2017年、薬の売上高世界1のスイスのロシュ(売上高6兆円)は、研究開発費に1.3兆円近く使っている。
売上高2位の米国のファイザー(売上高5.8兆円)も研究開発費に8500億円以上使っている。
情報元:【2017年製薬会社世界ランキング】売上高トップはロシュ ファイザーは2位後退 |AnswersNews
武田薬品工業の大阪本社が入居する武田御堂筋ビル、出典:Wikipedia
製薬会社は資金力がないと生き残ることができない。
他の業種より研究開発に多額の金が必要なためだ。
そして、この傾向は今後更に強くなる。
武田薬品工業がシャイアーを買収する主なメリットは、「資金力」と「販売力」の強化だ。
シャイアーは優良企業だ。平成29年12月期の純利益は約4700億円である。これは武田薬品工業の2.5倍の水準だ。更に、希少疾患治療薬に強みがあるため、安定的に収益を上げることができる。
買収完了後、武田薬品工業は新薬開発のための研究開発費を大幅に増やすものとみられる。
シャイアーはアイルランドの製薬会社だが、売上高の6割は米国である。米国は世界一の市場だ。
武田薬品工業は米国での販売を強化するつもりだ。
日本の製薬会社が生き残るためには、グローバル化が不可欠だ。
製薬会社は10数年ごとに売れる新薬を開発しないといけない。特許の存続期間は出願から20年だ。
しかし、どんなに金をかけても、それは不可能な話だ。
少ない手持ちの薬で利益を上げるには、外国で売るしか選択肢はない。
その他にも、グローバル化には大きなメリットがあるのだが、ブラックな話なので、この記事では止めておく。
製薬会社のグローバル化は、更に進む可能性が極めて高い。