群馬大学大学院医学系研究科の定方哲史(さだかた てつし)准教授と細井 延武(ほそい のぶたけ)講師の研究グループは、高齢者に多くみられる体が震える原因を解明した。
小脳にあるプルキンエ細胞の突起部分で、タンパク質「Nav(ナブ)1.6」が失われるためだと結論づけた。
震え以外に症状がなく、原因が分かっていない病気を「本態性振戦(ほんたいせいしんせん)」という。自らの意思で震えを止めることはできない。
これらの症状は老化と共に顕著にみられる。本態性振戦の発症率は、65歳以上では約14%。
原典:Wikipedia
研究グループは、タンパク質「クラスII ARFタンパク質」を作り出せないマウスを作製した。同タンパク質は、細胞内で他のタンパク質の輸送に関わっている。
作製したマウスは、寝ているときには異常がないが、起きて活動している時は常に体を震わせていた。
マウスの脳の活動を詳細に調べたところ、プルキンエ細胞の活動が異常に弱まっていた。プルキンエ細胞の突起部分では、タンパク質「Nav1.6」が失われていることが確認された(下図)。
正常なマウス(左)と タンパク質「Nav1.6」が失わたマウス(右)の小脳、原典:群馬大学
研究グループは、再び、タンパク質「クラスII ARFタンパク質」を作り出せないマウスを作製した。今度は、「クラスII ARFタンパク質」をプルキンエ細胞のみで働くようにした。
すると、マウスの体の震えは少なくなった。
以上から、身体の震えは、「Nav1.6」が失われることにより、発生することが分かった。
研究グループは今後、なぜ老化により「Nav1.6」が失われるのかを調べ、「本態性振戦」の根本的な治療法開発を試みる。
また、アルコール依存症や緊張時の体の震えについても、同様の状態の可能性があるため、明らかにしていきたいとした。
病気の有効な治療法を確立するためには、まずは発生メカニズムを解明する必要がある。今回の成果は、「本態性振戦」の根本的治療の第一歩となる可能性が十分にある。
このような研究こそ、日本は強く支援をすべきである。