東北大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同研究グループは、遺伝子ノックアウトマウスの宇宙滞在生存帰還実験に世界で初めて成功した。
帰還したマウスを解析した結果、以下の2点を発見した。
- 宇宙長期滞在は加齢変化を加速させる
- 転写因子「Nrf2」は、この加齢変化を食い止める
【用語解説】
遺伝子ノックアウトマウス:特定の遺伝子が無効化された遺伝子組換えマウス。重要なモデル動物
転写因子:DNAに結合して遺伝子の発現を制御するタンパク質の総称
「Nrf2」が加齢変化を食い止める仕組み
地上から約415km上空には「国際宇宙ステーション」という米国や日本、欧州各国が共同で運用している巨大な有人施設がある。
内部は無重力となっており、様々な実験が行われている。日本も「きぼう」という実験棟を持っている。
研究グループは、通常のマウス6匹と、Nrf2遺伝子ノックアウトマウス6匹の計12匹を、国際宇宙ステーションの「きぼう」で飼育した。
約30日間後、12匹すべてが生きて帰還した。遺伝子ノックアウトマウスの宇宙滞在後の生存帰還は世界初。
帰還したマウスを調べたところ、各臓器で遺伝子発現や血中代謝物の変化などが確認された。一部はヒトの加齢性変化と同じだった。
宇宙に滞在すると筋肉量低下など加齢に似た現象が起きることは知られていたが、遺伝子発現や血中代謝物の変化でも加齢が確認されたのは初。
これらの加齢変化は、Nrf2遺伝子ノックアウトマウスの方が加速していた。このことから、Nrf2には加齢変化を食い止める役割があることがわかった。
今回の研究により、Nrf2が宇宙滞在による加齢変化の加速を食い止め、健康維持に働くことが分かった。
今後、宇宙滞在中の健康リスク克服に加え、地上においても様々な加齢性疾患の予防や治療への応用が期待される。
情報元:Nrf2 contributes to the weight gain of mice during space travel | Communications Biology
人類はいずれ宇宙に進出していくだろうが、その際に健康維持は最大の課題となる。このような研究は必要不可欠である。
更に、宇宙でしかできない実験もある。
事業仕分けでJAXAの予算を削るような愚かなことは、二度としてはいけない。