名古屋市立大学の長谷川忠男教授らの研究グループは、人体に害のない可視光線を利用した「光殺菌技術」の開発に成功した。
可視光線により効率的に細菌およびウイルスの殺菌・不活化が可能であることを、世界に先駆けて実証した。
可視光線とは、電場と磁場の変化を伝搬する波「電磁波」のうち、ヒトの目で見える波長のもの。波長は概ね 380-800nm ほど。「可視光」とか「光」と呼ぶ場合もある。
可視光線より波長の短いものが「紫外線」である。紫外線の波長は概ね 10-380nm ほど。
近年、光を照射するだけで室内の空気や表面に付着した細菌やウイルスを殺菌できる「紫外線(UVC)による殺菌技術」が注目を集めている。この技術を利用した製品も多い。
しかし、紫外線(UVC)はヒトの細胞やタンパク質に強く吸収される。法律で規制された数値以上の紫外線(UVC)を浴びると、アトピー性皮膚炎や皮膚がんのリスクが高まる。
「ナノ秒波長可変パルスレーザー殺菌装置」の仕組み、名古屋市立大学提供
細菌やウイルスは、可視光線内でも効率的に光を吸収する波長領域がある。特に、有色細菌である緑膿菌、黄色ブドウ球菌ではこの特徴は顕著。
研究グループは「ナノ秒波長可変パルスレーザー殺菌装置」という独自の装置を開発した。ストロボフラッシュ装置のようなイメージのもの。
この装置で細菌やウイルスにパルスレーザーを瞬間的(ナノ秒時間程度)に照射すると、簡単に300℃以上の高温になり、殺菌・不活化ができるという。一方、ヒト細胞は殆ど温度上昇しない。
ヒト細胞と比べると、細菌やウイルスは遥かに小さいため高温になりやすい。更に。細菌やウイルスが吸収しやすい波長の光(可視光線)を当てる。
大腸菌に対して「ナノ秒波長可変パルスレーザー殺菌装置」使用前(左)使用後(右)、名古屋市立大学提供
研究グループは大腸菌に対して、「ナノ秒波長可変パルスレーザー殺菌装置」のパルスレーザーを照射してみた。
今後は大腸菌だけでなく、様々な病原性細菌やウイルスでも安全に殺菌できることを目指すという。
新型コロナウイルスの拡大により、紫外線(UV)放射を利用した殺菌装置が注目を集めている。
確かに、同装置には強い殺菌効果があるが、ヒトの目や皮膚への傷害などには悪影響を与える場合もある。火傷をした事例もいくつかでている。
また、ネットの通販サイトなどには、完成度の低い製品も販売されている。
メリットよりもリスクのほうが大きい...と指摘する専門家もいる。
可視光線による殺菌技術が実用化されれば、上記のようなリスクはほぼ全て無くなる。
簡単にはいかないだろうが...実用化してほしい技術である。